車体に大きく描かれた「箱根登山電車」の文字。この車両、日本の車両ではなく、なんとスイス「レーティッシュ鉄道」のGe4/4 II形電気機関車622号機です。
レーティッシュ鉄道は、アルプスを中心としたスイス東部に路線を持ち、氷河急行やベルニナ急行などの観光列車でも有名なスイス最大級の私鉄です。開業から130年以上と歴史ある路線は、アルプスの美しい景観と調和し、2008年には「レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観」として世界遺産に登録されています。
なぜ、スイスの山岳鉄道で「箱根登山電車」ラッピング車両が走っているのでしょうか?
実は、レーティッシュ鉄道と箱根登山鉄道との縁は深く、約100年以上前まで遡ります。1900年代前半に箱根登山鉄道の前身企業の技師が、登山鉄道視察のためスイスのベルニナ線を訪れました。この視察を元に箱根登山鉄道が建設されたといわれています。この訪問がきっかけとなり1979年(昭和54年)6月1日、箱根登山鉄道はスイス・レーティッシュ鉄道と姉妹提携を結ぶこととなりました。
これを契機に両社は深い絆で結ばれ、レーティッシュ鉄道で「Ge4/4 II形電気機関車」622号機に「箱根登山電車」ラッピングが施された車両が走行しました。このラッピング車両はNゲージなどの鉄道模型を販売する「KATO」が製品化し販売しています。また、ベルニナ線山岳鉄道用の「ABe4/4形電車」54号機は「Hakone」の愛称がつけられています。
同様に箱根登山鉄道でも1981年(昭和56年)3月17日に、「ベルニナ号」の愛称がついた箱根登山鉄道1000形電車がデビューしました。1000形は、翌1982年の第25回「ブルーリボン賞」を受賞しています。
1989年(平成元年)3月17日にデビューした箱根登山鉄道2000形電車には、再びレーティッシュ鉄道にちなんで「サンモリッツ号」の愛称が付与されました。
さらには、2014年(平成26年)11月1日、箱根登山鉄道3000形電車「アレグラ号」が就役しました。「アレグラ」とは、スイス・グラウビュンデン州に今も息づく希尐言語、ロマンシュ語のあいさつ言葉から由来しています。「アレグラ号」は、2015年ローレル賞を受賞しています。
現在、思うように海外、まして国内旅行もままならず、どこかにいきたい衝動にかられてしまいます。しかし、遠く離れたアジアとヨーロッパの登山鉄道が長い年月をかけ深くつながっていることに想いを馳せ、いつかこの姉妹鉄道に乗り比べができることを夢見るのも素敵な時間になるかもしれません。