2018年に公開の映画「えちてつ物語 わたし、故郷に帰ってきました。」をご存知ですか?お笑いタレントの横澤夏子さんが主演を務め話題となった福井県・えちぜん鉄道(えち鉄)の客室乗務員(アテンダント)にスポットを当てた物語です。この映画は、実際に同社でアテンダントをしていた嶋田郁美さんの原作が元になりました。その後も数々のメディアに紹介されるなど、アテンダントが全国的にも有名になりました。アテンダントと聞くと華々しい印象ですが、その使命は同社設立前まで遡ると、皆さんのイメージとは大きく違っているかもしれません。
えち鉄は福井県福井市にある第三セクターの鉄道会社です。会社設立は2002年、路線は福井駅から三国港を結ぶ三国芦原線と、福井から勝山を結ぶ三国芦原線の2路線を有します。同社移管前は京福電気鉄道が運営を行なっていましたが、2000年12月と2001年6月に旧越前本線(現・勝山永平寺線)内で2度の列車衝突事故が発生。これを受け国土交通省は京福電気鉄道福井鉄道部に対し、全線での運行停止とバスによる代行輸送を指示しました。
バス輸送となった沿線地域は豪雪地帯。冬季間は自転車やバイクなどが利用できないため自家用車での移動が増加、交通渋滞がひどくなり大幅にダイヤが乱れ、ついに地元住民からは鉄道の再開を望む声が多く上がりました。季節性が強く影響する地域での鉄道の重要性・必要性が、皮肉にも重大な事故が発生したことで浮き彫りとなりました。こうして、他とは全く経緯の異なる形で福井県と沿線市町村から成る「えちぜん鉄道」が誕生します。
えち鉄設立から約1年後の2003年秋、三国芦原線と三国芦原線が事故以来正式に運転を再開します。この時から同社のアテンダント業務も同時に開始されました。アテンダントの業務は、車掌などが行うドアの開閉や出発合図などの列車の運行に直接関係する業務は行いません。ではなぜ、車掌ではなくアテンダントが誕生したのでしょうか?前述した通り、過去2度の重大事故で失ってしまった信頼と厳しい経営状態を大きく変えるためにはこれまで通りの運営継続が厳しいことは明らかでした。また、バリアフリーに対応するような新たな車両導入など、ハード面に投資することは難しいと判断。そこで高齢者も多く利用する地域で、地元に寄り添う鉄道会社となるため、ソフト面を一番に考えた結果、「アテンダント」といういわばサービス業に行きつきました。
同社のアテンダントは2021年9月現在12名が在籍、ほとんどが地元出身の方です。勤務形態はさまざまで、それぞれのスタイルに合わせ働きやすい環境が整っています。業務内容は、高齢者など、支援を必要とする方への乗降時のサポートをメインに、乗車券などのきっぷの販売・回収や観光・接続案内の車内アナウンスなど多岐にわたります。買い物や病院に行く高齢者の利用者に対し、県警と連携し近年横行する特殊詐欺に関する最新の手口や注意点などを、アテンダントが車内案内や乗客への声がけなどの啓発も行なっています。遠方からの鉄道ファンや観光客にも人気のアテンダントですが、あえて観光客向けには乗車日程の公表を行なっていません。あくまでも、地元住民へのサービスです。それは、設立時から変わらない地域に寄り添う信念にもあるのではないでしょうか。
「地域・社会との信頼を基本におきお客様への安全性・利便性・快適性をとおして、地域共生型サービス企業をめざします。 ほっと、こころ、つなぐ。えちぜん鉄道」
えち鉄が掲げる徹底した地元愛、それを第一線で利用者と向き合うえち鉄の顔「アテンダント」。2024年の北陸新幹線の延伸開業とともに大きく進化している福井県、そしてアテンダントが乗務する電車で恐竜博物館や温泉など観光地がたくさんある「えち鉄」沿線を巡る旅へ出かけてみてはいかがですか?