〈サイナンタン DE サイナン！〉
鹿児島中央駅12時02分発の指宿枕崎線の枕崎行き電車に乗車しました。
今回の電車旅で一番楽しみにしていた路線です。
最大のミッションは西大山駅で、開聞岳と共に「JR日本最南端の駅を示す標柱」の写真を撮ることでした。

電車はキハ４７の２両編成。ワンマンカーです。
私は２両目の最後部に乗り込みましたが、鹿児島中央駅を出発した時は既に車内は学生たちで混んでいて、座ることが出来ませんでした。しかし、電車が進むにつれて車内は空きはじめ、出発して20分位で最後部の海側の席をゲットすることが
出来ました。
頭を雲で隠した大きな桜島が車窓から見え、早速、写真を撮り始めました。

天気は快晴。青い海と空、緑の山と畑！
電車は美しい海岸沿いや山間をひたすら走るので、全く車窓の景色に飽きること
なく写真を撮りまくりました。とりわけ、スヌーピー山の姿が珍しく、車窓に
かじりついていました。（と言っても、スヌーピー山と知ったのは、このレイル
ラボに写真を整理した時ですが）
この辺りまで来ると乗客は少なく、２両目には15人位でしょうか。

スヌーピー山を通り過ぎると左手前方に開聞岳の姿が見えてきました。
そして電車のスピードもゆっくりになってきました。
いよいよ、JR日本最南端の駅・西大山駅が近づいてきました。

時刻が13時45分に近づいてきた頃です。
運転手さんから車内アナウンスがありました。
「まもなく西大山駅に到着致します。お降りになられるお客様は１両目の車両に
お移り願います。停車時間は２分です」

「２分かぁ～。よし、ぱっと行って写真１枚撮ってこよう！」
私が座っていたのは２両目ですが、５～６人の乗客が私と同じように写真を撮りに降りるんでしょう、立ち上がって、まだ揺れている車内を少しずつ１両目に移動を始めました。

そして電車が西大山駅に停車しました。両開きのドアが開きました。
ビックリです。狭いホームに人・人・人・・・でいっぱいなんです！
皆さん、カメラやスマホを手にして、JR日本最南端の駅の標柱＋開聞岳＋電車（先頭部分）の構図に「自分」を加えて、撮って撮られての“撮影会”が繰り広げられているんです。何しろ停車時間が２分しかありませんので皆さんも必死です。

私の目の前ではまだ７～８人の若者が“撮影会”に興じていました。
（心の中で）「お～い、早くしろよう～！」
いらいらして順番を待っていました。
私にしても写真を撮る機会はこの時しかありません。
（心の中で）「絶対、撮らなきゃ！」
残るは２人です。
（心の中で）「よし、よし、もうちょいだ！」
もうこの時は、写真を撮ることに夢中になっていました。
自分の歳も忘れ、停車時間も忘れてしまっていたのです。

「よし、きたぁ～♪」
やっと私の前に人がいなくなり、カメラを念願の標柱と開聞岳に向けてシャッターボタンを押しました。
「カシャッ！」

その時です！
電車が少し動いたんです。私はホームの人と電車が接触しないようにちょっと移動したのかな、と思いました。

違うんです！
電車は止まることなく、そのままスピードを徐々に上げて枕崎に向って走り去って行ったんです。停車時間を過ぎていたんです。

「ああ～！電車が行っちゃったぁ～！！」
まるでテレビドラマのシーンのようでした。でも笑うに笑えません。
西大山駅は無人駅です。気が付けばホームには私一人だけです。誰もいなくなりました。

あの電車の中に、２両目の最後部の海側の席に、私のリックと２つのAちゃんの
お土産袋が置いてあるんです。
ホームに置き去りにされた私の持ち物というと、手にスマホとカメラ、ベストに
青春１８きっぷと手帳と計画表、そして首に掛けたストラップにクレジットカードとスイカだけでした。

「ありゃ～、まいったなぁ～！」
これは定年後最大の“ボケミス”だ！と思いました。
そして、まず頭によぎったのは、私のリックの行方よりも「Aちゃんのお土産を
また紛失するかもしれない！」という危機感でした。
実は、この旅の第１ラウンド（新宮駅から紀伊田辺駅）で電車の棚にお土産を
置き忘れた“実績”があるんです。

「さぁ～どうしよう！」
日差しはMax、２PMです。焦りと暑さで汗が流れます。
無人駅で周りに何もないのに～と首を右に９０度向けた時、駅前から１００ｍ程
離れた所に小さなお土産屋さんが１軒見えました。

「よっしゃ～！」
間髪を入れず、その店に駆け込みました。
店内には５～６人のお客がいたかと思いますが、すぐにレジにいた女性店員さんに近づき、恥ずかしさなんか吹っ飛んで、藁をも掴む思いで
「すみません、実は先程の電車で来たんですけど、写真を撮るために途中下車したら電車に乗り遅れてしまったんです。電車の中に私のリックとお土産袋が置き去りになっていますので、どこか最寄りの駅と連絡を取って私の荷物を確保してもらいたい思うんですが、電話番号教えてもらえますか？」

私はこの旅の前に、西大山駅と終点の枕崎駅が無人駅であることは承知していましたが、
「この先は枕崎まで全て無人駅なんですよ」と店員さん。

一瞬、頭が「ガーン！」となった。
その時、別の女性店員さんが寄ってきてくれて、レジの後ろの壁に貼ってあった
駅の電話番号を指差して「ここに電話したらどうですか」と応援してくれた。

　　　　　　指宿駅　〇〇〇〇ー〇〇ー〇〇〇〇
　　　　　　山川駅　△△△△ー△△ー△△△△

「やったぁ～♪」「有難うございました♪」
電話番号をメモし、早速、店を出て庇の下でスマホで電話しました。

ところが、２回、３回と電話を掛けましたが、指宿駅は呼び出し音が鳴り続ける
だけ、山川駅はプッ・プッ・プッを繰り返すだけで繋がりません。
「ええ～～！！」またまた不安な気持ちが湧いてきました。

そこで、再度、店のレジの所に戻り、先程、電話番号を教えてくれた店員さんに「すみません、どちらも電話が繋がらないんですけど」

店員さんはお客さんの対応に行ったのか一旦その場を離れ、そして、しばらくして戻ってきて私に小さなメモ書きを差し出して、
「ここに掛けてみたら！」
現在、山川駅は無人駅になっているらしく、手渡されたのは指宿駅の携帯の電話
番号とのこと。

「もしもし、私、三島と言いますが、実は・・・・・」繋がったぁ～♪
指宿駅の駅員さんに今回の事情を説明した。
「それでは、これから電車の運転手に電話連絡して、荷物を確保してもらいます。連絡が取れましたらこちらから三島さんに電話致しますので、しばらくお待ち願います」

店員さんに、指宿駅の店員さんと連絡が取れた旨、報告した。
「外は暑いですからそこの休憩室で休んで待っていて下さい。冷たい飲み物もありますからどうぞ！」

私は「これで大丈夫だ！」と思いました。
そして３０分位経った時でしょうか、私のスマホに着信音が鳴りました。
もちろん指宿駅の駅員さんからです。

「運転手と連絡が取れました。リックと２つのお土産袋も確保しました。
先程の電車は折り返して枕崎駅を１５時５４分に出発しますので、西大山駅には
１６時５６分に到着しますから、その電車に必ずご乗車下さい。そして運転手に
声を掛けて荷物を受け取って下さい」

「お手数をおかけして申し訳ありませんでした。有難うございました」
この時は実に嬉しかったなぁ～！

すぐに店員さんに報告しました。
「良かったですね。到着までだいぶ時間がありますから、休憩室で休んでいて
　下さい」

これで安心して電車の到着時間を待つことが出来ました。
その間、２時間半程の時間をどう過ごしたのかというと
①お土産に「かつお節」を２袋買った。（クレジットカードで）
　「幸せを届ける黄色いポスト」の黄色いミニチュアを買おうと思ったら見本品
　しかなくて残念だった。
②誰もいない西大山駅に戻り、写真を撮り直した。
　やっぱり「下車して写真が撮りたくなる景色だ！」「見飽きない！」
③本来の計画では終点の枕崎駅まで乗車して、折り返して鹿児島中央駅に戻る
　予定でしたが、今回の“ボケミス”で西大山駅→枕崎駅間が未乗車となって
　しまったため、いつ・どういうスケジュールでこの穴埋めをするかを検討して
　いた。

お土産店は４時半が閉店だったので、お世話になった店員さん達にお礼を言って、まだ人気のない西大山駅に歩を進めた。ホームに立ち、ピラミダルな開聞岳の
美しいシルエットを眺め、改めてカメラのシャッターボタンを押した。
そして、電車の到着時間が近づくにつれて１人・２人・３人と増えていき、
１０人位が待ち構える頃に、ついに電車が駅に近づいてきました。
私は電車に、運転手さんに、手を振りたい気持ちでした。

電車が西大山駅のホームに停車しました。
ドアが開いて乗車。車内は空いていました。すみやかに運転台へ。
「スミマセン、三島です。お手数をおかけして済みませんでした」
運転手さんからリックと２つのお土産袋を無事受け取ることが出来ました。
「有難うございました」

席に座り、荷物を横に置いてしばしの間ほっとした時、車窓にスヌーピーの寝姿が見えてきました。