大井川鐵道のグループ会社大鉄アドバンスが主催する「富士山遊覧飛行と大井川鐵道と南アルプスあぷとライン」をご存知でしょうか?静岡県を拠点にするフジドリームエアラインズ(FDA)と富士山静岡空港(静岡空港)、そして大井川鐵道の3社がコラボレーションした“乗りものと美しい景色を堪能する”ツアーです。2023年3月25日、レイルラボ編集部は丸一日をかけて同行取材を行いました。当日はあいにくの雨模様、参加者にとっては少し残念なスタートを切りましたが、神様からのまさかの素敵なご褒美があることを、旅の始まりにはまだ誰も知りませんでした。
どんなツアーなの?
「富士山遊覧飛行と大井川鐵道と南アルプスあぷとライン」は、静岡駅または富士山静岡空港発着で、遊覧飛行とアプト式列車・SL乗車ができ、富士山と湖上駅の美しい景色が楽しめるツアーです。行程は以下の通り。
1,FDAによる富士山遊覧飛行
2,大井川鐵道の奥大井湖上駅からアプト式列車に乗車
3,川根温泉ホテルでランチバイキング
4,大井川鐵道のSL乗車
ツアースタートは静岡駅もしくは静岡空港から、とにかく朝が早い
ツアーの集合場所は、静岡駅か静岡空港の2か所から選択可能。遠方からの参加者は前者、地元参加者は後者集合が多いようです。私たちは東京から前乗りして静岡駅前に宿泊しました。同行取材は静岡駅からスタート。5時半に集合しツアーバスに乗車、約1時間かけて静岡空港へ向かいます。
6時半前に空港へ到着。当日は定期便も重なるため、早めに2階の保安検査場へ向かいます。便名は富士山の標高にちなんで「3776便」という粋な演出があり、行き先が「静岡空港〜静岡空港」という貴重な記載のチケットは、良い思い出になりそうです。
静岡空港は、約5年前の改築で国際線と国内線が分かれ、新設エリアは天井が高く、一部では県内産の木材をふんだんに使用して明るく開放的な雰囲気に。保安検査場を抜けると一面に滑走路が!こちらで朝ご飯の軽食も配られました。
いよいよ機内へ
今回搭乗するFDAの機体はブラジル製のエンブラエル175(E175)。同社はこの機体を16機保有、機体の色は全部で15色あり、カラフルな飛行機を運航することで知られています。ツアーでは、どのカラーになるのかは当日までのお楽しみです。チェックインして搭乗口から向かうと見えてきました。今回はホワイトの機体「機体記号:JA12FJ」でした。
今回のクルーのみなさんです!
離陸〜周遊フライトスタート!
今回の参加者は約70人、関係者も含めると機内はほぼ満席です。春休みということもあって、参加者の多くは子ども連れの家族で、その他、若いグループやカップルでの参加者でした。7時半頃にゲートを離れ、いよいよ離陸。機内では、CAさんから地元静岡で作られた“あめ”が振る舞われました。そして空港で配られた朝ごはんをいただきます。雨のため雲は厚く、残念ながら富士山の周遊は断念し中部方面へルートを変更です。南アルプス〜長野県伊那市〜岐阜〜愛知を回って静岡空港に着陸しました。
ちなみに、天候が良い日の眺めはこちら。富士山ドーン!!です。
着陸後もやはり雨。しかし、空港を出る際にFDAの方からカードが配れらました。QRコードを読み取ると、搭乗客への感謝のメッセージが表示され、とてもほっこりする演出に嬉しい気持ちになりました。
いざ大井川鐵道へ!そして神は舞い降りました
8時40分頃にFDAのみなさんの熱烈なお見送りで、ツアーバスにて空港を出発し、一路大井川鐵道へ向かいます!まずは千頭駅でトイレ休憩、その後山道を登ってアプト式の井川線(南アルプスあぷとライン)に乗車する奥大井湖上駅を目指します。道中は桜が見頃を迎えていて、ガイドさんが都度、おすすめの場所を案内してくれました。雨でも桜はやっぱり、綺麗です。10時半頃に奥大井湖上駅の近くに到着します。
山道を少し進むと、ガイドさんに促されるように視線を正面に向けた瞬間。降りてきました!私たちに神様からのプレゼントが!!見てください、この美しすぎる絶景を。
それはもう、水墨画の中に吸い込まれたかのような世界です。声も出さず、ひたすら目に焼きつけ、シャッターを切る指が止まりませんでした。歓喜の涙なのか、雨なのかわからない顔の水分が、体や気持ちを潤してくれました。「ありがとう!この悪天候」とまで心の中で叫んでいました。聞けば、地元の人でもなかなか見ることのできない景色だと言います。山々には、もたれかかるような霧と厚い曇、青い接岨湖(せっそこ)の湖面と真っ赤な橋脚「奥大井レインボーブリッジ」の奇跡の絶景。そしてこの景色の中央に、目指す奥大井湖上駅がぽつんと佇む様はいつまでも眺めていたいと思わせてくれるものでした。天候や、四季折々で全く異なる姿を見せてくれるこの場所を、すべて見てみたいと思いました。
ちなみに天候が良い日の景色はこちら。晴れも、もちろん素晴らしいです!
しかし時間は限られています。再び足元に気をつけながら下山開始!ここからは登山道のような山道なので水たまり・ぬかるみがたくさん。注意しながら進むこと約15分で橋脚のたもとへ到着。こちらもまた最高の眺め。線路スレスレの脇道を歩くことができます。見渡す限り美しい湖と山を望みながら、駅へ到着しました。晴れた日には、誰でもスムーズに散策できる遊歩道なので安心して歩くことができます。また、高齢者や足の悪い人は、バスに乗車して次の駅へ向かうことも可能です。
日本で唯一のアプト式 井川線に乗車
11時8分にDD20形ディーゼル機関車「205」・スロフ300形客車・クハ600形客車が入線!日本で乗車できるのはここだけという憧れの列車に乗車します。レトロで見慣れない列車に子どもたちも大興奮でした。
乗車した日は、湖の水位が低い季節ということで、旧井川線の線路やトンネルの姿を見ることが。そもそも接岨湖は、2002年に完成した長島ダムによって大井川を堰き止めてできた人造湖です。井川線は、ダム工事のために湖に沈む区間を付け替える形で新線を建設し、奥大井湖上駅が誕生しました。
2つ隣の長島ダム駅にて、いよいよアプト式のED90形電気機関車「903」が登場!連結作業を見学します。アプト式は、ラック式鉄道方式の一種で2本のレールの真ん中にラックレールを敷き、車両の床下に設置された歯車を噛み合わせて急勾配の線路を登っていく方式のことです。アプトいちしろ駅から長島ダム駅までの一区間のみ、90‰(パーミル)の急勾配のため、この方式を採用しています。貴重な一駅を長島ダムの放流を車窓に望みながら堪能し、アプトいちしろ駅で切り離したあとは一路、千頭駅へ。
12時14分に千頭駅へ到着、ここからは再びツアーバスで移動します。大井川鐵道が運営する「川根温泉ホテル」でランチバイキングをいただきます。メニューは和洋中と豊富な品揃えで、大人から子供まで楽しめる内容です。特にお刺身の種類が多く、好きな具材を選んでオリジナルの海鮮丼を作るコーナーが人気を集めていました。
満開の桜に魅了家山駅周辺散策
ランチを終え、14時頃にツアーバスへ乗車し家山駅へ。桜がほぼ満開となったこの日は各地から大型バスが何台も到着し、多くの観光客で賑わっていました。こんな光景は、コロナ前にもどったような雰囲気で活気に溢れていました。駅周辺、ホームは人でいっぱいに。
大鉄が誇るSLと旧型客車へ乗車
乗車するのは大鉄が誇るもうひとつのメインイベント、蒸気機関車(SL)と旧型客車です。SLはC10形「C10 8」を使用し、「さくら」のヘッドマークを掲出しています。今回の同行で、個人的にもっとも感動的な瞬間がこのSLでした。小学生の頃(1987年頃)に岩手県宮古市にて、一時的にイベント列車として運行されていた同機牽引の「しおかぜ号」に、初めて乗車した記憶が蘇りました。これも神様がくれた嬉しい出会い。あれから30数年、まさかこの大井川の地で、鉄道人生のルーツのひとつに再び出会え、涙が溢れました。
乗車するのは旧型客車のオハ47形「オハ47 398」。そこかしこに昔の面影をそのままに残し、ノスタルジーな雰囲気を味わえます。先ほど家山駅にいた多くの観光客が乗り込み、車内は満席の大盛況でした。14時59分に列車が出発し、沿線の桜を眺めながらのんびり列車に揺られていると、通過する駅や沿線の民家、車で踏切待ちをしている人々がこちらに手を振ってくれていました。この地では、SLが当たり前に走り、生活の一部に溶け込んでいることを実感しました。
15時27分、あっという間に終点の新金谷駅へ到着。SLはすぐに切り離され、転車台で方向転換していました。乗客も思いおもいに、車両の撮影などを楽しみました。16時に再びツアーバスに乗車して16時15分頃に静岡空港へ到着。約30分、お土産の購入などをして出発し、予定通り17時45分頃に終点の静岡駅へ到着し帰路につきました。
感想は...静岡のいいところをぎゅっと詰め込んだ最高のツアーでした!
端的にいうと、今回の感想は「素晴らしい」の一言につきます。ツアータイトル通り、乗りもの好きにはたまらない内容でした。この行程は、鉄道コースだけでも個人手配で組むのはなかなか難しいことでしょう。なにより、各ポイントで、素晴らしい案内やおもてなしを受けられるのは、ツアーならではの大きな魅力です。
大井川鐵道は、2022年9月の台風15号により被災し、一時は井川線・本線ともに全線で運転を見合わせました。10月には井川線全線が、そして12月からは本線 金谷〜家山間の運転を再開し、現在も短い区間ですが、SLやELも運行され、多くの観光客の喜ぶ姿を見ることができました。
大鉄には、日本で唯一乗車できるアプト式路線や、国内有数の保有数を誇るSL、貴重な旧型客車から南海や近鉄、東急で活躍していた懐かしい車両の数々が多く在籍。さらに、子どもたちが大好きなSL「きかんしゃトーマス号」も大自然の中を駆け抜けます。取材当日も、年配の方から鉄道ファン、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に来た子どもたちと、幅広い世代に愛されていることを実感しました。これからの観光シーズン、ぜひ、静岡 大井川の自然を感じに、大井川鐵道を訪れてみてはいかがでしょうか。
ツアーについての詳細
ツアー「富士山遊覧飛行と大井川鐵道と南アルプスあぷとライン」は、4月22日(土)にも開催予定。旅行代金は12歳以上が34,800円、3歳から11歳が32,800円、3歳未満は2,000円(席・朝食なし)。朝食と昼食・お土産がつきます。ツアー詳細は、大井川鐵道のウェブサイトで確認できます。