2031年度の開業に向けて、JR東日本が建設着手を発表した「羽田空港アクセス線 (仮称)」。全長約12.4kmの区間のうち、約7.4kmは既存の設備を活用するとしています。この既存設備というのが、主に「大汐線」と呼ばれる1998年から休止線となっている東海道貨物支線です。2023年4月、レイルラボ編集部では大汐線の休止線を探訪し、現在の状況を覗きました。
■ 羽田空港アクセス線 (仮称)
これは、“東山手ルート”とよばれる宇都宮・高崎・常磐方面と、“西山手ルート”の新宿・池袋エリア、“臨海部ルート”の房総方面と、多方面と羽田空港をダイレクトに結ぶ新線計画です。2031年度にまず“東山手ルート”の開業を目指し、他のルートについては順次検討が進められます。大汐線の活用部以外は、アクセス新線(約5.0km)を新設します。東京貨物ターミナル駅南端から羽田空港へ乗り入れるトンネル掘削工事が行われます。
■ 大汐線のいま
大汐線は、汐留の貨物駅と大井埠頭近くの東京貨物ターミナル駅を結ぶ、かつて存在した東海道貨物支線。貨物専用線でしたが、1990年代には「カートレイン九州」として、浜松町=東小倉間をEF65PF形牽引で、20系客車や14系客車を連結した「車と一緒に移動できる」列車が同線で運行されたことがありました。現在では再開発によって高層ビルが立ち並ぶ汐留エリアには、1980年代後半まで広大な貨物駅があり、当時は多くの貨物列車が発着していました。その後、大汐線は1998年に“休止”扱いとなり、架線や電線等はほとんどの区間で撤去されましたが、休止から25年経った今もその線路や架線柱、橋梁などの設備はそのまま残されています。ようやく、この廃線跡(正確には休止線跡)を再活用することになりました。
たくさんの線路が敷設されている田町駅付近ですが、内側からJR山手線・京浜東北線・東海道本線(上野東京ライン)、東海道新幹線の線路が並びます。さらに、その外側(海側)に単線の休止線があります。計画では、これら線路の真ん中あたりに敷設されている東海道本線の線路から分岐し、地下トンネルで東海道新幹線を跨ぎます。
東海道新幹線本線を跨ぐ地下トンネルの出口の場所は明らかとなっておらず、田町駅付近から東海道新幹線の回送線と共に分岐した高架橋が、使用されるかは定かではありません。浜松町駅から出発した東京モノレール羽田空港線の車内からは、単線の休止線と続いて湾岸部へ続く高架線の様子を眺めることができます。この高架橋では、東海道新幹線回送線と同じく大汐線は複線化。単線部にはすでに工事関係者の姿もあり、本格着手に向けた調査などが始まっているものと思われます。
大汐線と東海道新幹線回送線の高架橋は、天王洲アイル駅付近で首都高速1号羽田線を跨ぎ、東京貨物ターミナル駅を目指し臨海部の工業地帯へ向かいます。この付近では、立派なアーチ橋の姿も。その後、京浜運河を渡り、モノレール車内からは進行方向(羽田空港方面)左手に見えてきます。
東京臨海高速鉄道(りんかい線)の品川シーサイド駅と、京浜運河を挟んだあたりで東海道新幹線回送線と別れます。
ここでは複々線となっており、一部架線には電線が張られています。これは、東京貨物ターミナル駅からの入れ替えで、休止後も電気機関車の入線も行われていたからだと思われます。しばらく南へ進むと、東京貨物ターミナル駅の外側、りんかい線八潮車両基地のあたりでも工事が予定されています。ここは現在、単線となっていますが、遊休地を活用して複線化と、留置線や保線設備が設けられる計画です。
このあと東京貨物ターミナル駅南端、大田市場の手前で東海道貨物線は地下に潜り、川崎方面へ向かいます。羽田アクセス線(仮称)は、このトンネルには入らず、別のトンネルから羽田空港方面へ向かう計画。ここからの約5.0kmがアクセス新線建設区間となります。
羽田空港新駅(仮称)は、全日本空輸(ANA)やソラシドエア、エアドゥなどの国内線が主に発着する第2ターミナル付近、P3駐車場脇の地下1階に設置予定。15両編成対応の1面2線のホームとなる計画です。第2ターミナルはもちろんのこと、日本航空(JAL)やスカイマークの国内線が発着する第1ターミナルへも地下通路で結ばれることとなるでしょう。
2031年度の“東山手ルート”開業後、「上野東京ライン」の宇都宮線・高崎線・常磐線直通電車が乗り入れます。将来的には「湘南新宿ライン」「りんかい線・埼京線」、「京葉線」の乗り入れ含め、豊富な路線網を持つJR東日本の強みを活かし、多方面への路線展開が予測されます。さらに、既存の東京モノレール線や京浜急行線よりも、より直線的なルートで羽田空港まで直行することができるため、所要時間の大幅な短縮が期待されます。羽田空港アクセスのさらなる拡充と向上が、8年先まで迫っています。